-
古い日本の民家に現代の快適さや機能性も取入れリノベーションすることは、歴史や文化を保存・継承しながら新たな生命を吹き込むことができます。古民家再生は、ある定まった方式が存在するものではなく、同じ素材からでも、再生後の利用目的に応じて、出来上る建築は異なった表情となります。それは目的に応じた【工法】【工事範囲】【グレード】の選定によって取りうる技術や材料が多様であるからです。
-
古民家の再生には新築建築物にはない多くのステップがあります。先ず建物の構造や基礎を評価し、修復や補強が必要な部分を特定します。次にデザインや内装を新しくする際に、古い特徴や素材をできるだけ生かす工夫が求められます。また、環境への配慮やエネルギー効率の向上など、持続可能な要素も考慮されることがあります。素材である建築の十分な【健全度調査】を基礎資料として、これらの専門的なプロセスを付加するには、古民家再生に熟知した建築家や施工会社と協力しながら、古民家の魅力を引き出す新たなスタイルを生み出すこと重要です。
ここでは、全日本建築士会会員が手がけた、事例をご紹介します。
先ず、この例での建物の状況と修繕概要についてです。
場所によっては床や柱が 20 ㎝以上も陥没して、解体一歩手前でありました。柱脚部の腐朽が激しく、根継ぎ(腐食した柱根元を新しい部材に交換すること)が多くなりすぎると構造が成り立たなくなりますので、揚家工法(建物全体を持ち上げる)を用い、腐朽した柱脚部を切除、石場建て基礎(基礎石の上に直接柱を立る工法)を鉄筋コンクリートの布基礎に置き換えることで現代の構造基準を確保しました。
この再生工事の計画・施工は、次のような流れで進行しました。
A:調査・計画のフロー
1.地域の民家様式についての調査
2.現況建物の目視調査による調査:既存図の作成 構造の理解
《調査結果》
- ・屋根:小屋雨漏りがあるが構造に著しい劣化は見られない。
- ・建物一部で大きな傾きがある。
- ・柱根元が潰れ床レベルに100~250mmの沈下が見られる。
- ・再生可否はもう少し詳細調査が必要。
3.部分解体工事を伴う構造調査 再生の可否、施工者と意見交換
《調査結果》・床仕上、床組を全て撤去し柱1本々の調査、約半数の柱脚の腐朽を確認。
- ・耐力壁の強度裏付けは建築基準法の“構造耐力上必要な軸組み”に則ることとし、いくつかの工法の中から揚屋工法を用い『傷んでいる柱脚を切除、床レベルを変えずにRC布基礎と土台敷きを新設する』という修繕案と概算工事費を決定。最近の住宅工事はベタ基礎が一般的だが、揚家工事の仮設が床全面に広がる為、布基礎とし、防湿コンクリートを後打ちとした。
- 床仕上撤去調査
- 床組解体調査
- 撤去後
- 外壁仕上撤去調査
B:設計のフロー
1.実施設計の作成
柱脚・基礎の修繕案策定
下屋の修繕案策定
仕上げ材の剪定方針
2.確認申請:確認機関との打ち合わせ
3.工事費見積・工事契約
C:工事のフロー
1.準備・解体工事:工事用通路の確保 柱を残し敷居・床面より下部は全て撤去
2.揚家工事:縦入れ直し 揚げ工事 基礎工事 土台敷き工事 降ろし工事 防湿コンクリート
3.屋根構造工事:上屋(垂木・野地板葺き・軒構造)修繕工事 下屋(構造・垂木・野地板葺き)工事
4.内部造作工事:外壁下地・床組み工事 各室木工事 アルミサッシ取付 戸走り・戸袋取付
5.屋根外壁葺き工事:GL鋼板立平葺き・棟造り 外壁リブ付きGL鋼板張
6.左官工事:荒壁補修 漆喰中塗り・上塗り
7.最終仕上工事 外構工事:木製建具復旧工事 土間・玄関前・裏軒下叩きコンクリート打ち 整地
- 揚家工事:建物全体を持ち上げ新しい基礎を新設します
- 基礎工事:捨てコン上へ墨出し
- 柱のホゾ:土台への差込みです
- 基礎完成:建物が浮いているのがよく判るります。新設基礎の上に土台を設置
完成写真
古民家再生のご相談を受け付けています
放置している古民家を再生しませんか? 古くからの日本の伝統に根ざした古民家は、地域の大切な財産です。
ご紹介している事例は、住宅に再生したものです。住宅に限らずレストラン・喫茶室等の活用も可能です。これらは地域活性化にも繋がる、社会的に価値ある施設になります。
一般社団法人 全日本建築士会は、日本の木造建築を手がける建築士の団体で、木造の知識を持つ専門家が会員です。
全日本建築士会では皆様の古民家再生のご相談を受け付けています。
古民家・空き家再生のご相談
お問い合わせ