一級建築士 試験

令和 6年一級建築士学科試験の講評

- 令和 6年 7月30日 -

●本年の試験は、各科目において、いわゆる難問は比較的少なく、全般的には、例年並みの標準的な難易度の問題が多い試験だったといえます。各科目別の難易度では、計画、環境・設備、施工は例年並みで、法規、構造は例年に比してやや難易度は低く、総じて例年よりもやや難易度は低かったといえます。



学科Ⅰ(計画)
計画の科目で出題される範囲は極めて広く、計画は元来、建築の全ての事項に係わる訳ですから当然ともいえるわけですが、本年の問題も環境・省エネルギーに係わる問題、ストック型社会への移行に係わる保存・再生に係わる問題、建築の木造化の推進に係わる問題等、近年の社会状況を反映した問題として「気候風土適応住宅」、「断熱計画」、「建築物の長期利用」、「高層住宅集合住宅における修繕・改修」、「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」や「木質系材料」等、一部他の科目に渡るような問題が比較的新規の視点からの問題として出題されました。

学科Ⅱ(環境・設備)
環境・設備は、近年の地球温暖化等の環境・省エネルギーに最も直接的に係わる科目として、新規の問題の出題される可能性も比較的高い科目ですが、本年も、新規の問題として、「空調設備の空調方式の特徴」に関する問題や、「暑さ指数」、「屋内統一グレア評価値」、「環境評価システム」等に関する問題が新規の問題として出題されたのが注目されます。

学科Ⅲ(法規)
法規の出題分野は例年、建築基準法が20間、関係法令が10問で、本年も例年通りの出題数でしたが、概ね過去の出題範囲からの問題で、過去の問題を着実に理解していれば解ける問題が多く、難易度は例年に比しやや低かったといえます。
但し、関係法令として、近年の建築士法重視の傾向から本年も建築士法に係わる問題が3問出題され、また、近年の環境・省エネルギー問題への重視から「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」や自然災害問題への重視から「宅地造成及び特定盛土等規制法」についての問題が新たな視点からの問題として出題されたのが注目されます。

学科Ⅳ(構造)
構造の問題は全般的には、いずれも過去の出題範囲からの問題が多く、新規傾向の問題は比較的少くなかったものの、力学に関する一部の問題や各種構造に関する一部の問題で新たな視点から問題が出題されました。
力学の問題におけるヒンジの梁で、左右で剛性が異なる場合の反力を求める問題や合成骨組で両柱の支持条件が異なる場合の問題等が新規の問題として注目され、各種構造における問題としては、「剛床仮定が成り立つ4階建て鉄筋コンクリート造における偏心によるねじれを小さくする方法」に係わる問題が新規の問題として出題されたのは、特に注目されます。

学科Ⅴ(施工)
施工の問題の出題範囲は広く、新規の出題範囲からの出題も例年比較的多く見られる中で、本年は比較的、新規の問題の出題は少なく、難易度は概ね例年並みであったといえます。 但し、近年、施工においても重視されるようになってきている「工事監理業務」に関する問題が本年も出題され、更に、施工者の側の技術者である監理技術者に関する問題が別の問題として本年は出題されたのは注目されます。
建築生産における基本的な体系として、施工者の適切な施工を確認する役割の「工事監理」と施工を実施する側の「施工管理」との明確な区分と施工管理者側に属する「監理技術者」のそれぞれの役割と区分を明確に理解しているか否かが問われた問題として注目されます。

以上のように本年の試験問題は、概ね例年並みか例年よりやや難易度の低い、総じてやや難易度の低い問題からなる試験だったといえますが、他方、この試験は絶対評価の試験でなく、相対評価の試験とも考えられます。このため、やや難易度の低くかった本年の試験として、各科目ごとの合格基準点(各科目の出題数の半分以上の得点)や総合合格基準点(各科目総合の得点で92点が目安とされている)の一部が、問題の難易度がやや低かったことにより、若干引き上げられる可能性もあり、問題の難易度が低かったことが必ずしも試験の難易度が下がることにはつながらないことにも留意しておく必要があります。


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