二級建築士 試験
令和 6年二級建築士設計製図試験課題の講評
- 令和 6年 6月20日 -
本年度の課題: 「観光客向けのゲストハウス(簡易宿所)(鉄筋コンクリート造)
要求図書
・1階平面図兼配置図[縮尺1/100]
・各階平面図[縮尺1/100]
・立面図[縮尺1/100]
・断面図[縮尺1/100]
・部分詳細図[縮尺1/20]
・面積表
計画の要点等
(注1)建築物の階数については、試験問題の設計条件において指定する。
(注2)答案用紙には、1目盛が5ミリメートル(矩計図については10ミリメートル)の方眼が与えられている。
注意事項
試験問題を十分に読んだうえで、「設計製図の試験」に臨むようにしてください。
なお、設計与条件に対して解答内容が不十分な場合には、「設計条件・要求図書に対する重大な不適合」と判断されます。
● 本課題の本質的な意味
令和6年二級建築士設計製図試験の課題は、上記のように「観光客向けのゲストハウス(簡易宿所)(鉄筋コンクリート造)」と発表されました。 本年の課題は、予想通り3年ぶりの鉄筋コンクリート造の課題となったものの、
課題の「観光客向けのゲストハウス(簡易宿所)」には、従来の課題の傾向とやや異なる印象を持った方も多いのではないでしょうか。
その場合、その異なる印象はどこから来るのでしょうか。 それは多分、課題となる建物が、従来の課題のような建物の種類として明確な固有名詞を有するもの、過去の例でいえば、専用住宅、喫茶店併用住宅、保育所、貸店舗、コミュニティ施設、記念館などのような一般的に明確に定形化された建物の名称ではなく、必ずしも明確に定形化された建物の固有の名称とはいえない「観光客向けのゲストハウス」、「簡易宿所」というものであることから来ているのではないでしょうか。
確かにゲストハウスとは、一般的にホテルや旅館と異なり、トイレや浴室等が共用で相部屋を基本とする簡易な宿泊所のことを指す訳ですが、そうだからといって民宿やユースホステルなどと記されている訳でもなく、単に簡易宿所と付記されているだけですので、かえって、今回の課題の建物は、既存の明確に定形化された種類の建物といえない不明確な印象のものとなっているとも考えることができます。
このように、
今回の課題は、一見、従来の課題の傾向とは異なるもののようにも思われるのですが、その実、以下のような理由で近年の一貫した設計製図試験の新傾向の延長線上に今回の課題はあるものとも考えることができます。
それは、昨年の課題の「専用住宅」におけるように、従来の課題のような「趣味室のある専用住宅」や「将来の高齢化に配慮した専用住宅」のような専用住宅についての付記がなく、単に「専用住宅」と出題されたことにより、その分、課題としての出題の内容の範囲が限定されることなく非常に広くなる訳で、これは一昨年の付記がなく、単に「保育所」として出題された課題にも通じる傾向と考えることができます。
このことは、課題の内容の出題範囲が広範囲になったことにより、従前のような課題についての付記があることによって課題の出題の範囲がある程度限定されていることにより、いくつかのパターン化した演習課題の解答例を記憶するような勉強法で対応することは困難となる訳で、
本来の設計製図試験の主旨ともいえる、しっかりした建築計画力を身に付けることが確実な合格を得るために不可欠となってきた訳で、これは平成24年に試験実施センターから発表された試験内容の見直しにおける建築計画力(空間構成力)の重視にも通じるものと考えることができ、また近年、日本建築学会より建築士設計製図試験への提言として出された設計製図試験におけるエスキースの重視にも通じるものと考えることができます。
今回の試験の課題「観光客向けのゲストハウス(簡易宿所)」の内容は正に、単に固有の定形化された建物の内容に必ずしも限定することのできない広範囲なもので、
近年の試験の傾向に沿う従来にも増して基本的な建築計画力を要する課題となってきていると考えることができます。
● 本課題への対策
上記のように、本課題の内容の出題範囲は、例えば、この簡易宿所の経営者の住居を含むいわゆる併用住宅形式のものなのか否か、この簡易宿所部分には食堂の他に宿泊者の交流の場としての交流室や交流ラウンジのようなものを含むのか否か、または食堂が宿泊者の交流の場を兼ねるのか否か、またそれらの場は屋外のテラス等と結ばれて屋外の空間と関連付けて計画すべきものか否か、それらの交流の場は2層分の天井高で1,2階を空間的に結ぶ吹抜けとなっているのか否か等、宿泊者の交流の場についてだけ考えてみても実に様々な場合が課題条件として考えられます。
更に、この施設が観光景勝地に位置することから、周辺の景観に対する計画上の配慮や敷地の高低差等、様々な条件が計画上の重要ポイントとなることも考えられます。
以上のように、
本課題は、簡易宿所という極めて単純なものであるが故に逆に様々な要素を含む広範囲な内容の課題となり得るもので、それらをいくつかのパターンとして覚えておくことを主眼とした勉強法では対応が困難な課題であるということができ、
以上のような傾向の課題については、様々な課題条件に着実に対応できるような建築計画力をしっかり身に付けておくことが極めて重要であるといえます。
建築計画において重要なポイントとなる
ゾーニングや動線についての考え方は、課題条件によって実に多種多様な場合がある訳ですが、その一方でそれらの根底となる考え方には、基本的にはいくつかの共通する考え方がある訳で、それらの共通する基本的な考え方を着実に身に付けていくことにより、多種多様な内容の課題にも適切に対応することのできる建築計画力を身に付けることが可能となります。
なお、今回の課題が宿泊客を対象とした建築基準法上の特殊建築物であることから、上記の建築計画についての基礎的留意事項として、建築基準法上の耐火建築物や防火区画、避難の規定、居室の採光に係わる規定や更に景観上の高さ制限等について特に留意する必要があります。
● 本会講座の特長
本会の講座は、設計(建築計画)及び製図についての着実な基礎力の養成から着実な合格力の養成を目指すものですが、
特に近年の試験の傾向から、合格のための重要な鍵となる建築計画力の徹底養成を図る内容となっております。
通学、通信講座ともに全く同一のカリキュラム、内容で、建築計画力の徹底養成のために、
全ての演習10課題について添削指導することとしており、また、通学、通信講座ともに
全ての課題(演習課題10、応用課題5)について建築計画上の考え方に重点を置いたWeb動画による詳細なサポート解説(各約150分)を配信することとしております。
着実な建築計画力の養成のためには、演習課題の内容のクォリティ(質)が極めて重要となるため、本会講座では、本会会員の日本建築学会賞受賞者をはじめとする第一線の建築家であるベテラン講師陣が、着実な建築計画力の養成を念頭に系統的、段階的に作成する課題から添削指導まで一貫して担当することとしております。
本会講座における各段階の演習課題の内容は、本試験課題の内容を徹底的に検討して作成したものであることにより、個々の演習課題の内容が本試験の課題内容と似たものとなることもあり得ますが、本会の講座はあくまでもパターン化した事項の記憶によるヤマを当てる式の勉強ではなく、着実な建築計画力の養成が合格へ至る最も重要で確実な道であるとの主旨から構成されております。
令和 6年度二級建築士講座一覧