二級建築士 試験
令和 5年度二級建築士設計製図試験の講評
- 令和 5年 9月10日 -
(1)本年の課題の本質的な意味について
令和5年の二級建築士設計製図試験の課題が事前に「専用住宅」と発表された折の当会の試験課題についての講評では、この課題は従来の傾向と異なる全く新しい傾向の課題と考えられると記しましたが、その理由は、従来の事前に発表される課題では、仮に「専用住宅」であったとしたならば、必ず、例えば「3世代の住む専用住宅」などというように副題が記されており、事前にどのような種類の専用住宅であるか分かるようになっていた訳ですが、今回の事前に発表された課題の「専用住宅」では、副題が記されていなかったため、単に「専用住宅」ということしか分からず、結果的には、非常に範囲の広い課題ということになった訳です。
それでは、このことは一体何を意味するのでしょうか。結論的にいえば、試験課題の「専用住宅」について、それがどのような種類のものなのか、試験の準備のための的が絞りにくくなったということで、上述のように非常に課題の範囲が広くなったということになる訳で、それだけ、従来にも増して、どのような課題にも共通するような基本的な建築計画力を身につけておくことが必要になり、どのような課題にも共通するような基本的な建築計画力を身につけておくことが問われるような試験になってきたと考えられる訳です。実際に一級建築士設計製図試験では、数年前より、このような出題傾向となってきており、二級建築士設計製図試験でも基本的な設計力を評価するという設計製図試験の本来の目的から考えても、今後このような出題傾向が続く可能性が高いと考えられ、このことは、試験の傾向としては、非常に大きな変化であると考えることができます。
以上のことを先ず、念頭において、本年の実際の試験の課題をみていくこととします。
(1)本年の課題の本質的な意味について
本試験課題は、40歳代の夫婦と中学生の子ども一人が住む二階建ての住居と同じ趣味の仲間が集う場としての多目的室から構成される建物で、事前に発表された副題の記されていない単なる「専用住宅」という課題の趣旨に通じるよく考えられた課題であったといえると思われます。
なぜなら、まず、二階建ての住居について、住居の基本的な計画力を求めるとともに、趣味の仲間の集う多目的室を併設することにより、この課題は、「専用住宅」ということから考えられる範囲の建物からなかなか考えつかない種類の建物となっており、また同時に、難度が一段増した建物となっており、より高度な建築計画力を要するものとなっているからです。
すなわち、単なる「専用住宅」という課題としたことの意図は、
- ①従来の事前に発表する課題に比して、課題の内容を広範囲なものとして、なかなか特定できないものとして、課題の内容を特定できた人と特定できなかった人で有利・不利が生じにくいものとし、できるだけ基本的な建築計画力そのものを評価するものとする。
- ②あくまでも、住居としての基本計画力を評価できるものとする。
- ③同時に、課題の内容をやや想定しにくい複雑なものとして、より高度な建築計画力を問えるようなものとする。
以上は、あくまでも無論推測ですが、事前に発表された課題から本試験の課題の内容まで、一貫した趣旨のものとなっており、今後の課題の傾向を考える上でも、非常に参考になるとも考えられます。なお、本試験課題の内容、ポイントについて、具体的に見てみると、次のような点があげられます。
- ①この課題の建物へのアプローチとしては、住居の玄関へのアプローチと多目的室へのアプローチの二つがあげられますが、この課題の敷地の接道条件が、西側と北側の二つの道路となっていることから、基本的には、西側と北側のそれぞれの道路から、住居の玄関、多目的室へのそれぞれのアプローチをどのようにとるか考えることが第一のポイントとなります。
この場合、駐車場は2台分を設けることとされていますが、一般的には、1台分づつをそれぞれのアプローチに関連づけてとることが定石で、また、二つのアプローチがそれぞれの影響をできるだけ受けないようにするためにも、建物への二つのアプローチを西側か北側の一つの道路からのみとって、ほかの道路からはアプローチをとらないのは、一般的な解答としては好ましくありません。(あくまでも建築士の試験では一般的な考え方による解答を原則とすべきであると考えられます)
なお、敷地の西側と北側に接している二つの道路の幅員が両方ともに6mで同じであることも受験者に、二つのアプローチをどのようにとるか考える際の予見を与えないための出題者側の意図とも考えられ注目されます。
- ②住居部分については、
●LDKの部分に10㎡以上の吹抜けを効果的にとること、
●ガ-デニング用のできるだけまとまった庭を南側にLDKに面して設けること。
●近年の在宅勤務の普及に関連して、ワークスペースを適当な場所に設けることが要求されていて、いわゆる 住居についての課題としても程度の高いものとなっていますが、
- ③更に、趣味を同じくする人が集う場としての多目的室については、
●外部と直接行き来できる出入口(アプローチ)を住居の玄関のアプローチと干渉しないように設けること、
●多目的室の位置は、厨房に隣接させ直接出入りできるようにするとともに、駐車スペースとの関連を考慮する。
●多目的室の南側にまとまった広さのテラスを設け、テラスからガーデニング用の庭も眺められるようにする等のことが要求事項としてあげられており、以上のことは住居部分とのある程度の関連性を持たせるとともに、それぞれが建物の独立した部分として、互いに干渉しないような配慮が求められる、相当高い建築計画力が必要とされる課題となっているといえます。
(3)基本的などのような課題にも共通する建築計画力とは
本年の試験の課題は、課題の内容の予測が難しい広範囲の課題であることから、どのような課題にも共通する基本的な建築計画力を身につけておくことが、従来以上に求められるようになってきたと先に記しましたが、どのような課題にも共通する基本的な建築計画力とは、具体的にはどのようなものなのか、(2)の本試験課題の意味とポイントで述べたことにあてはめて、以下に少し考えてみることにします。
①先ず、アプローチについては、二つの敷地に接する道路から、どのように考えてとるのか、2世帯の専用住宅や三世代の専用住宅等の様々な住居の場合について、それぞれの駐車場との関連や建物の二つの住居部分の性格等についてどのように考えて、互いの干渉が出来るだけ生じないようにとるのか等について、当会講座の演習課題で種々の場合について取り上げており、建築計画上、基本的に共通する考え方が含まれていると考えることができます。
②また、住居部分のLDKの上部に吹き抜けをどのように設けるかということについても、家族が集う場としての居間の上部に設け、二階等の上階については吹き抜けの部分が、閉鎖的な空間とならずにできるだけ開放的な空間となるように設けることが演習課題で示されており、また、ワークスペースについても、他の住居部分とできるだけ干渉を受けにくい個所に設けること等が演習課題で示されています。
③また、住居部分のLDKの南側、多目的室の南側にそれぞれまとまった広さのガーデニングスペース、テラスをとるという課題条件についても、当会の演習課題で何度か取り上げており、南側にまとまった広さの庭がとりにくい条件となる敷地の南側に道路が接する場合等についても取り上げています。
④なお、本試験課題における、住居部分に同じ趣味の人が集う場としての多目的室をどのように関連づけて併設するかという建築計画上の考え方については、二世帯が同居する住宅、三世代が同居する住宅等の演習課題で取り上げた互いに関連する要素をどう関連づけ、また、同時に互いの独立性を維持し、互いの干渉をできるだけ受けないようにどのように考えるか等の建築計画上の考え方について、建築計画上、共通する基本的な考え方があるため、種々、参考になる点があったと考えられます。
以上のように、一見、課題の建物そのものについての条件は異なるものであっても、基本的な考え方が共通する建築計画上の共通的な基本事項ともいえるものが種々ある訳ですので、それ等をしっかり身につけることが、今後の設計製図試験の大きな流れともいえる傾向に対応する鍵ともなると考えられます。
令和 6年度二級建築士講座一覧